第4章 ファンダメンタルズ分析力 FX投資におけるファンダメンタルズ分析の基礎 1
「金利」、「インフレ率」、その他「金融商品の関係性」を学ぶ
投資分析の基本中の基本「ファンダメンタルズ」とは?
さて、いよいよ第4章に突入です。マーケット予測における「分析」を学んでいきましょう。
投資分析には2種類あります。
一つ目が、この章でお伝えするファンダメンタルズ分析。もうひとつがテクニカル分析です。
「ファンダメンタルズ」とは、経済の基礎的条件を指します。つまり、ファンダメンタルズ分析とは、実際の需給や経済指標、また、政治、金融情勢、天候などを判断材料とした分析手法です。
反面、テクニカル分析とは、あらゆるファンダメンタルズ的材料を考慮せず、価格や出来高、チャートの形状や、その他多くの数理統計的な分析手法を使って未来を予測する分析方法です。
ファンダメンタルズとテクニカル、両手法は、敵か味方か?
「私はファンダメンタルズ分析派」
「ぼくはテクニカル分析派」
というように、この両手法には、投資家の好みが分かれたりします。
たしかに、分析手法の得意、不得意はあるでしょうし、フィットする、しない、という問題はあると思います。また、マーケットそのものに対する考え方、信念の問題もあります。
しかし、この両手法は、別に相反しているわけではありません。
相場には、「ファンダメンタルズ分析で理屈が通らない」、逆に「テクニカル分析で分析しきれない」、この両方の場合があります。
そんなときに、両方の分析手法で対応できるようしておくことが大切です。
まずは、本章と次章で、両方の分析手法の基礎を学んでいきましょう。
政策金利と為替の関係
FX投資のファンダメンタルズ分析において欠かせないのが、政策金利、に対する基礎知識です。
そもそも、金利とはお金を借りた際に発生する「利息」のことを指します。
多くの企業は、価値あるモノやサービスを生み出す前に「設備投資」をする必要があり、銀行から資金を借り入れます。つまり企業にとって、融資時における銀行の利息が高い(高金利)か、利息が低い(低金利)か、という問題は経営判断に直結する非常に重要なポイントになってくるのです。
また、個人にとっても、固定金利型の住宅ローンを組むときなどに、金利はとても大きなポイントになってきますよね。
短期金利を決めているのは各国や各経済圏中央銀行であり、それぞれの国の政策を基にしています。
具体的にどういうことか、少し説明していきましょう。
たとえば、不景気の際、各国の中央銀行はどう考えるでしょうか。
不景気ということは、企業が設備投資に回すお金を出し渋りがちになりますよね。
そんな時に銀行から借りるお金の金利が高かったら「今は借りたくない」となります。
そうなれば「企業の設備投資額が低下」→「さらに経済は低迷する(不景気)」という流れが作り出されてしまいます。
不景気の際、中央銀行は「政策金利を引き下げ」ます。
金利が下がれば、企業は「金利が低い今なら設備投資の資金を借りよう」と思い、経済は活発化に向かいます。これは同時に、消費者に対し「銀行にお金を預けていても(金利が低いので)あまり意味がない→消費しよう」という流れも作り出します。
結果、「政策金利の引き下げ」が不景気の解消につながるのです。
これが、「金融緩和政策」です。
逆に、好景気の場合はどうでしょう。
反対に金利を上げて、「引き締め」るのです。
そもそも、あまり好景気過ぎるのもよくありません。好景気の時は、消費や投資に過熱感が生じ、これが継続すると「バブル」経済になり、いずれ「バブルの崩壊」という痛手を被ることになってしまうからです。
この「好景気の継続→バブル→バブル崩壊」を防ぐのも中央銀行の役割です。
「今の状況だとバブルになりかねない」と中央銀行が判断した場合は、「金利を上げて、銀行の貸し出しを抑える」という流れになります。そうなれば、企業の生産活動は抑制に向かい、同時に消費者のお金は「銀行にお金を預けていればたくさん利子がつく、今は、消費を抑えて銀行に預金しよう」という風に動きます。
これが、「金融引き締め政策」です。
つまり、日本において、日銀が金融緩和をしようとする場合は、政策金利は低くなり、引き締めに動く場合、政策金利が高くなる、という風に動くわけですね。
スワップポイント(スワップ金利)のシステム
実は、FX取引では、国際的な金利差に目を向ける必要があります。
たとえば、南アフリカの金利が5%で、日本の金利が0.1%だとしたら、みんな預金を、金利の高い国、つまり南アフリカランドに預金しようとします。
また、その国の金利が高いということは、そのとき、その国の景気は堅調だということです。
つまりイメージとして「この国に投資しておけばOKだ」という投資家心理にもつながり、その国の通貨が買われます。
このように、マネーは「高金利の国へ向かう性質」があります。
FX取引における二つの通貨間の金利差を「スワップポイント」と呼びます。
スワップポイントは、保証金の額ではなくレバレッジを加味した「取引金額」に対して計算されるので、ある程度の大口また中長期投資家であれば、この利益を大きなメリットと捉えることができます。
ちなみに、為替変動による利益を「キャピタル・ゲイン」。スワップポイントなどで得る利益を「インカム・ゲイン」と呼びます。
金利とインフレ率の関係に注意
ただ、高金利の国の通貨だからといって安易に買い続けるのも実は危険なのです。
金利と並行して考えなければいけないのが、インフレ率(物価上昇率)です。
政府は物価を、高すぎず安すぎない「バランスの良い状態」に維持するように心掛けています。
しかし実際には、様々な要因により、物価はバランスの悪い状態になってしまうことがよくあります。
ここで、物価と為替の関係を考えてみましょう。
物価が上昇するということは、簡単にいえば「以前は100円で買えたハンバーガーが、今は200円出さないと買えなくなる」ということです。
つまり、ひとつのモノに対して支払うお金が増えるということなので、相対的に「お金の価値が下がる」ということになります。
これは構造的に、為替相場と相関関係があります。
市場には、「購買力平価」という考え方があります。
例えば、一個100円のハンバーガーが、アメリカで1ドルだったとします。
つまりそのときは、100円と1ドルの価値が同じということになります。
しかし、日本の物価が上昇して、ハンバーガーが1個200円になったとします。するとその途端に200円と1ドルの価値が同じになってしまうので、一気にドルの価値が上がった(ドル高)と言い換えることもできるのです。
つまり、「購買力平価」の考えをベースにすると、インフレ率が高い国の通貨価値は低下するので、いくら景気がよく金利が高くても、通貨の価値が低下してしまっては、その魅力は相殺されてしまいます。
ちなみに、各国の中央銀行が定めている政策金利は「名目金利」と呼ばれます。名目金利からインフレ率を差し引いたものを「実質金利」といいます。
インフレを考慮して各国の金利差を推し量る場合は、「実質金利」に注目する必要があるのです。
株式と為替の関係性
為替相場と関連のある相場がいくつかあります。ここでは代表的な「株式」「債券」「原油」「金」の四つの相場について、関係性を簡単に説明していきましょう。
まずは「株式」です。
大前提として、「株価と通貨は同じように動く」ということが言えますが、では、「株が上昇するから通貨が上昇する」のでしょうか。それとも「通貨が上昇するから株も上昇する」のでしょうか。
実はこれは、両方なのです。
まず、株価主導で通貨が変動する状態を考えてみましょう。
日本株で説明すると、日経平均が上昇すれば、株式市場売買金額の約6割を占める外国人投資家(海外に居住している投資家)が日本株を購入しようとします。
その取引は、もちろん日本円で行われます。
つまり、日本株の人気が高まれば高まるほど、円に換金する必要性が高まり、円高になります。
次に、通貨主導で株価が左右するケースですが、これは単純に、その国の通貨が高いと言うことは、「その国の経済全体に対する評価が高まる」ということです。
業種的には、円高の時は日本の輸入関連企業が買われ、円安になると逆に輸出業の株に人気が集まります。
円高の場合は、円の価値が上がっているということなので、企業は海外から安いコストで原材料などを仕入れることができる。また、円安の場合は、海外通貨の価値が総体的に上がるので、輸出企業が外国で利益を出せば、円に換算したときの儲けが多くなるなどの理由が挙げられます。
では、ドルと日経平均は逆相関の関係にあるのでしょうか?
米ドルが下落したなら円が上昇したということだから、日本の日経平均は上昇するのではないかと考えがちですが、実は、そうとも言えません。
「円が上昇して、日経平均は下落した」
こういった状況はよくあります。
これは、背景として、ドルの下落につれて米国株も下落しているのです。
また、米国の株式指標は日経平均に多大な影響を及ぼすので、ダウが下がると、日経平均も下がり、日経平均が下がって、円が上がる、ということになります。
以上のように、ドル、円、米国株、日本株の4つの関係は一概には言えなく、その時のパワーバランスや、以前の章で説明した「市場の視点」や、「要人発言の有無」などで異なってきます。
債券と為替相場の関係性
次は債券と為替市場の関係です。
債券が株式と違うところは、あらかじめ利率や満期日が決まっているという点です。
中心となる国債について言えば、国が倒産することはまずないと考えて良いですし、利率が決まっていてリスクの低い金融商品です。
債券は為替市場に相当な影響を及ぼします。
一般的には、利回りが低下すると、債券の価格は上昇し、また利回りが上昇すると、債券価格は低下するという逆相関の関係にあります。
ただ、金利が上昇した際も、手放しで喜ぶのではなく、やはりインフレ率を加味しながらの投資を心がけましょう。
原油と為替の関係性
原油とは、油田から採掘したままの、精製されて石油製品になる前の段階の石油のことです。原油は世界経済の発展に必要不可欠です。今は「省エネ」や「エコ」の観点から代替エネルギーの開発も盛んですが、これらの完全な実用化にはまだ時間がかかりそうです。
2008年、サブプライムローン問題や米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻を受け、株式市場や通貨などから資金を避難させざるを得なかったファンドが原油に集中投資したのもこういった背景があったからです。
基本的なシナリオですが、原油価格の上昇は円売り材料です。
なぜなら、日本は原油輸入率が非常に高く、原油が高くなるとコスト高に直結するからです。
また、世界の原油はドル建てで取引されているので、高い原油を購入するときには、世界中で多くのドルが必要になる(つまり、世界がドルに買い替える)からです。
原油相場を主軸として為替相場を見るうえでのポイントは二つあります。
短期的なポイントは「相関または逆相関の関係にあるか。もしくは関係していないか」ということです。チャートを作ってみれば分かりますが、この二つの相場の、相関もしくは逆相関のトレンドは、中期的な周期で変化します。
つまり、短期的な関係性は非常に強く、どちらともなく相互的に価格を連動させていくので、例えば相関しているときに、「原油が上昇する」というニュースを聞けば、「もしかしたらドルも上がるかもしれない」と相場を予想できます。
そして、中長期的なポイントは「原油価格が上昇していたら、それがインフレを引き起こすか」ということです。
長い期間にわたって原油価格が上昇すれば、ほとんどすべての製品コストが上昇するので、世界各国でインフレ率の上昇が起こる原因になります。
「金(ゴールド)」と為替市場の関係
次は「金(ゴールド)」です。
そもそも、なぜ金は重宝されるのでしょうか。
それは、「人間の都合で生産量を調整できない」からなのです。
紙幣であれば、刷れば刷るだけ市場にあふれます。どのくらいお札を印刷するかということも、人の判断です。
しかし「金」は違います。金は、鉱山から掘り出されるしかないのです。
つまり、私たちの意思によって「供給量を変化させられない」のです。供給が限定的だということは、「価値が落ちない」ということですよね。だから、金は半永続的な価値を有しているのです。
通貨は基本的に紙切れです。インフレ率の上昇などによって、その価値は簡単に下落してしまいます。そんなときに金(ゴールド)は本当の輝きを放つのです。「紙(通貨)は安くなるけど、ゴールドは商品それ自体に価値があるから、価値は消えない」と思って、資金を金(ゴールド)に換える人が多くなる。
つまり、金とドルは「逆相関」の関係になる傾向があるのです。
ただ、金価格主導で為替相場が変動することは多いかと言われると、ほとんどないと言っていいでしょう。金には、原油のように、実体経済における実需がほとんどないのです。パソコンの部品など、必需的に使われることもなくはありませんが、その需要のほとんどは宝飾品としてです。
ポイントとしては、金(ゴールド)が中長期的に上昇している場合、「もしかしたら、インフレ懸念(←つまり、ドルの価値が疑われている)が台頭しているのではないかな?」と考え、ドルの下落を視野に入れられるようにしておくことです。
ファンダメンタルズ分析に、相場の“人間味”を付帯させる
この原稿で書いたことは、ファンダメンタルズ分析を行ううえでの基礎知識の一部分です。自ら学ぼうとすれば、もっとさまざまな材料が出てくるでしょう。
ただ、最後に伝えたいことは、相場とは、机上で議論される経済学とは異なるということです。
なぜなら、市場は「多くの人が参加することで成り立つ」ものだからです。
様々な情報を見て「経済学的にはどうか?」「ファンダメンタルズ分析のルールとしてどうか」ではなく「他の多くの参加者が、この情報をみてどう感じるか」という“人間味”を付帯させることで、さらに判断の精度が高まってくるでしょう。